養育費の公正証書がない場合はどうなる?今からできる請求・回収方法を状況別に解説

「公正証書を作らないまま離婚してしまった。今さら養育費を請求できる?」——このページを開いたあなたに、まず伝えたいことがあります。諦めなくて大丈夫です。公正証書がなくても、養育費を請求する権利は消えていません。ただし強制執行(差押え)には別途手続きが必要です。この記事では、状況別の対処法と最短で養育費を回収する方法を整理します。

目次

【結論】公正証書がなくても養育費は請求できる(ただし手続きが必要)

公正証書の有無は「養育費を請求できるかどうか」には関係しません。ただし強制執行(給与や預金の差押え)をするためには、別途「債務名義」と呼ばれる書類が必要です。

そもそも養育費は親の法的義務:公正証書の有無は関係ない

養育費は親の法的義務です。親権・婚姻の有無に関係なく、子どもと離れて暮らす親(非監護親)には子どもを扶養する義務(生活保持義務)があります。これは民法第877条に定められた義務です。

「相手が払わなくてもいい」という状況は、法律上ありえません。公正証書がないことで「請求権が消える」ことはありません。請求できないと思い込んで諦めてしまっている方が多いですが、それは誤解です。
参考:法務省|養育費

公正証書なしの場合はすぐに強制執行できない

公正証書がない場合の最大のデメリットは「すぐに強制執行(差押え)の申立てができない」点です。給与や預金を差し押さえるには「債務名義」という書類が必要です。

書類の種類強制執行できるか取得方法
公正証書(強制執行認諾条項つき)すぐにできる公証役場で作成
調停調書できる(+履行勧告・履行命令も使える)家庭裁判所の調停で取得
審判書できる家庭裁判所の審判で取得
口約束・LINE・合意書のみすぐにはできないまず調停申立てが必要

口約束・LINEの合意・自作の合意書しかない場合は、まず家庭裁判所への「養育費請求調停」の申立てが必要です。調停が成立すれば「調停調書」が発行され、これが債務名義になります。

結局どうすればいい?最短で養育費を回収する方法

結論:養育費請求調停が最も確実な方法

公正証書がない場合の最も確実な解決策は「養育費請求調停」の申立てです。家庭裁判所に申立てれば、弁護士なしでも手続きできます。費用は収入印紙1,200円(子1人あたり)と郵便切手代のみです。

今すぐやること:家庭裁判所への養育費請求調停の申立て。費用は子1人あたり約1,200円〜。弁護士なしでも申立てでき、調停調書が取得できれば強制執行も可能になります。

今すぐやるべき3ステップ

まず以下の3つを並行して進めましょう。
① 内容証明郵便で支払いを催促する:相手に「支払いを求めた証拠」を残すと同時に、プレッシャーをかける効果があります
② 証拠(LINE・合意書)を保全する:スクリーンショット・印刷・クラウド保存など、複数の方法で保管します
③ 家庭裁判所へ養育費請求調停を申し立てる:最優先で取り組むべきアクションです

弁護士なしでもできるが、相談すべきケースとは?

養育費請求調停は自分で申立てできます。ただし以下のケースでは弁護士への相談をおすすめします。

  • 相手がDVやモラハラをしている・連絡が怖い
  • 相手が調停に来ない・妨害してくる
  • 未払い額が大きく(数年分など)、民事訴訟を検討している
  • 相手の収入や財産の把握が困難な場合

あなたの状況はどれ?3つのケース別対処フロー

公正証書がない場合といっても、状況はさまざまです。自分のケースを確認して、対処法を選びましょう。

ケース①:離婚時に養育費の取り決めをまったくしていない

取り決めをしていない場合でも、養育費の請求権はあります。「取り決めなし=時効がない」のが原則です。ただし実務上、調停申立て以前の過去分を遡及して請求することは難しいため、一刻も早く行動することが重要です。

このケースでやること
① 今すぐ養育費請求調停を申し立てる(調停申立日以降の分から認められやすい)
② 2026年4月から施行の「法定養育費制度」も確認する(取り決めなしでも月2万円が法定の義務に)

2026年4月の民法改正で「法定養育費制度」が新設されました。養育費の取り決めがない場合でも、月額2万円が法律上の標準的な養育費として請求できる制度です。ただし強制執行(差押え)には引き続き調停調書などの債務名義が必要です。「法定養育費があれば調停は不要」という誤解には注意してください。
参考:法務省|民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について

ケース②:口約束やLINE・合意書で決めたが払われなくなった

合意の証拠(LINE履歴・合意書)がある場合、滞納分について民事訴訟で請求できる可能性があります。ただし将来分の強制執行には「調停調書」などの債務名義が必要です。

証拠の種類使えること使えないこと
LINEの合意メッセージ民事訴訟で合意の存在を立証できるそのままでは強制執行できない
自作の合意書・覚書合意の証拠になる公正証書と同等の強制力はない
口約束(証拠なし)合意があったことの主張はできる証明が困難なことが多い

このケースでは、調停申立てを最優先に進めましょう。調停が成立すれば調停調書が取得でき、今後の未払いに対して強制執行が可能になります。

ケース③:今は払われているが将来が不安で公正証書を作りたい

現在は払われていても「将来不払いになったら困る」という不安は自然なことです。離婚後でも元夫が同意してくれれば公正証書を作ることができます。

元夫が同意する場合:公証役場で公正証書を作成する(費用:手数料1〜2万円程度)
元夫が同意しない場合:家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てて「調停調書」を取得する

調停調書は公正証書と同等、またはそれ以上の強制力を持ちます。「今のうちに備えておく」という行動が将来の安心につながります。

公正証書なしで養育費を取り決める・回収する方法:養育費請求調停

公正証書がない場合のメインルートである「養育費請求調停」について、手順を丁寧に解説します。「難しそう」というイメージがありますが、自分で申立てができます。

養育費請求調停とは:弁護士なしでも申立てできる

養育費請求調停とは、家庭裁判所で調停委員(専門家)が間に入り、父母の話し合いをサポートする手続きです。弁護士なしで自分で申立てでき、費用も安価です。

項目内容
申立て費用収入印紙1,200円(子1人あたり)+郵便切手代
申立て先相手方(元夫)の住所地を管轄する家庭裁判所
弁護士不要(自分で申立て可能)
相手と直接会う必要なし(交互面談方式)
期間第1回期日まで約1か月。全体で3〜6か月程度が目安

調停の申立て手順:書類・提出先・流れ

養育費請求調停の申立ての流れを整理します。
① 申立書の準備:法務省・裁判所のホームページから書式をダウンロードして記入
② 必要書類の準備:子の戸籍謄本・自分と相手の収入資料(源泉徴収票・確定申告書等)
③ 相手住所地の家庭裁判所に書類を提出
④ 約1か月後に第1回期日の通知が来る
⑤ 調停委員を交えて話し合い(交互面談で相手と直接会わない)
⑥ 合意できれば「調停調書」が発行される

住所を知られたくない場合:DV等がある場合、申立書に自分の住所を記載せず「非開示」にすることができます。「住所非開示の申出書」を一緒に提出しましょう。

必要書類一覧:申立書・戸籍謄本・収入証明・事情説明書

書類入手先・備考
申立書(養育費請求)裁判所ホームページからダウンロード(書式あり)
子の戸籍謄本(全部事項証明)市区町村役所で取得(800円程度)
申立人(自分)の収入証明源泉徴収票・課税証明書・確定申告書の写し
相手方の収入証明(わかる範囲で)源泉徴収票の写し・給与明細等(任意)
事情説明書任意。養育費が必要な理由・現在の生活状況などを記載

参考:裁判所|養育費請求調停申立書

元夫と直接会わなくていい:交互面談方式の説明

調停は「交互面談方式」で行われます。申立人と相手方が同時に調停室に入ることはありません。待合室も別々に設けられているため、相手と直接顔を合わせる必要はありません。「相手と会うのが怖い」という方でも、安心して手続きを進められます。

調停成立後は「調停調書」が債務名義になる

相手が調停に来ない・話し合いで合意できない場合でも、諦めなくて大丈夫です。調停が不成立になると、自動的に「審判」手続きに移行します。審判では裁判官が養育費の金額を決定します。

相手が調停に出席しなくても、審判で裁判官が判断するため「相手が協力しなければ何もできない」ということにはなりません。審判書も債務名義となり、強制執行が可能です。

放置するとどうなる?養育費未払いのリスク

「もう少し様子を見ようかな」と思っている方に、放置することのリスクを正直にお伝えします。

未払いが続くと時効で請求できなくなる可能性がある

養育費の未払い分には時効があります。取り決めがある場合、支払日の翌日から5年で時効(民法169条)です。5年以上前の未払い分は、相手が「時効の援用」をすれば請求できなくなります。「時効の援用がなければ支払ってもらえる場合もある」という例外はありますが、リスクを避けるためにも早めに行動することが重要です。

相手の収入や勤務先がわからなくなり回収が難しくなる

元夫が転職・独立・引越しをすると、給与の差押え先や連絡先がわからなくなります。債務名義(調停調書等)を取得した後でも、相手の情報がなければ強制執行が難しくなります。
2020年の民事執行法改正で「第三者からの情報取得手続き」が整備されましたが、この手続きには債務名義が既に必要です。まず調停で債務名義を取得しておくことが先決です。

子どもの生活に直接影響が出るリスク

養育費は子どもの生活費・教育費・医療費です。未払いが続くと子どもの進学・習い事・日常生活に直接影響します。「自分が我慢すれば」と思っている方も多いですが、子どもの権利として請求することは正当であり、むしろ必要なことです。

調停調書・審判書を取得した後の強制執行の流れ

債務名義(調停調書・審判書)を取得した後、実際に未払い養育費を回収するための強制執行の手順を整理します。

給与の差押えが最も効果的な理由

養育費の強制執行で最も効果的な方法が「給与の差押え」です。通常の債権は手取りの1/4までしか差し押さえられませんが、養育費は手取りの最大1/2まで差し押さえることができます。

さらに「将来分の養育費」も一括して差し押さえることができます。一度手続きをすれば毎月自動的に元夫の給与から支払われる仕組みになります。元夫の職場にも差押えの事実が通知されるため、「会社にバレる」というプレッシャー効果も期待できます。

相手の勤務先・財産がわからないときの「情報取得手続き」

「元夫の勤務先がわからない」「預金口座がどこにあるかわからない」という場合でも、2020年の民事執行法改正で整備された「第三者からの情報取得手続き」を利用することができます。

  • 勤務先情報:市区町村・日本年金機構から勤務先を調査できる
  • 預金口座情報:金融機関に対して預金残高を照会できる
  • 不動産情報:法務局に対して不動産の情報を照会できる

ただしこの手続きは、債務名義(調停調書等)を取得した後でないと利用できません。まず調停で債務名義を取得することが先決です。

差押えの申立て先は地方裁判所:家庭裁判所との違いに注意

養育費請求調停の申立ては「家庭裁判所」ですが、強制執行(差押え)の申立ては「地方裁判所」です。同じ裁判所ではないため、注意が必要です。

手続き申立て先窓口
養育費請求調停の申立て家庭裁判所(相手住所地)家裁の受付
審判の申立て家庭裁判所家裁の受付
強制執行(差押え)の申立て地方裁判所(相手住所地)地裁の受付
情報取得手続き地方裁判所地裁の受付

時効に注意:公正証書なしの場合の養育費の請求期限

「今さら請求できる?」という疑問にお答えします。状況によって時効が異なります。

取り決めありの場合:支払日の翌日から5年で時効

口約束・合意書・公正証書のいずれかで養育費の取り決めがある場合、支払日の翌日から5年で時効となります(民法169条)。

例:3年前から養育費の未払いが始まった場合、今すぐ調停を申し立てないと、3年前から2年後(合計5年後)には時効が成立する可能性があります。「時効の援用」がなければ請求できる場合もありますが、リスクを避けるため早めに行動しましょう。

取り決めなしの場合:時効なし、ただし過去分の遡及は困難

養育費の取り決めがまったくない場合、時効はそもそも発生しません。しかし実務上、調停申立て以前の過去分(遡及分)を認めてもらうことは難しいのが現実です。

調停を申し立てた時点以降の養育費が認められるケースが大多数です。「だから一刻も早く調停を申し立てるべき」というのが最重要のポイントです。

調停・審判で決まった場合:時効が10年に延長される

調停調書・審判書で養育費が決まった後の未払い分は、時効が10年に延長されます(民法169条1項)。これが調停を通じて債務名義を取得することの大きなメリットのひとつです。

「養育費なし」で離婚した・合意してしまった場合でも請求できるか

「離婚時に養育費はいらないと言ってしまった」「書類に署名してしまった」という場合でも、完全に諦める必要はありません。

父母間の「養育費なし」合意は有効だが覆せる場合がある

「養育費は不要」という合意は原則として有効です。しかし以下のケースでは、調停を通じて請求できる可能性があります。

  • 合意の証明ができない口約束での「いらない」発言
  • 事情変更がある場合(子どもの病気・進学・自分の収入が大幅に減少するなど)
  • 子どもが経済的困窮状態に陥っているケース

「事情変更」を理由とした調停申立ては、「合意時点から状況が大きく変わった」ことを具体的に説明できれば認められる可能性があります。弁護士に相談して状況を評価してもらうことをおすすめします。

子ども自身が「扶養料」を請求する権利がある

親の合意に関係なく、子ども自身に非監護親(元夫)への扶養請求権があります(民法877条)。親が「養育費はいらない」と合意しても、子どもの権利は別物です。

子どもが将来、直接請求する権利が残っていることを覚えておいてください。また子どもの代理として監護親(あなた)が「扶養料」として請求する方法も検討できます。この分野は専門的な判断が必要なため、弁護士への相談をおすすめします。

自治体の養育費支援制度も活用しよう

法的手続きだけでなく、自治体の支援制度を活用することで費用や負担を軽減できます。

公正証書・調停費用を補助する自治体が増えている

近年、養育費の取り決めを促進するため、公正証書作成費用や養育費請求調停費用を補助する自治体が増えています。補助の内容・金額は自治体によって異なります。

まずお住まいの市区町村の子ども家庭課・福祉課に「養育費に関する補助制度はありますか?」と問い合わせてみてください。知らずに損をするケースが多い制度です。

養育費保証サービスの活用:法的手続きが難しい場合の代替手段

「元夫と直接やり取りしたくない」「精神的に調停が難しい」という場合の選択肢として、民間の養育費保証サービスがあります。

項目内容
サービス内容毎月の養育費を保証会社が立替払い・回収代行
メリット元夫との直接のやり取りが不要・未払いリスクを軽減できる
デメリット月額手数料・保証料がかかる(月額の10〜15%程度が目安)
保証上限各サービスにより異なる(月5万円上限のものが多い)
利用条件養育費の取り決めがあること(調停調書・公正証書等)

養育費保証サービスは取り決めがある場合に利用できます。取り決めがない場合はまず調停で調停調書を取得してから活用することをおすすめします。

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まとめ:公正証書がなくても諦めなくていい。調停を起こせば道は開ける

「公正証書がないから養育費は請求できない」——これは誤解です。公正証書の有無に関わらず、養育費は親の法的義務であり、請求する権利は消えません。

今すぐやること
① 証拠(LINE・合意書・受取記録)を保全する
② 家庭裁判所への養育費請求調停を申し立てる(費用:約1,200円〜)
③ 自治体の養育費支援補助制度を確認する
④ 弁護士・法テラスへの相談を検討する(DV・多額の未払い・複雑なケース)

「今さら手遅れかも」と思っていた方でも、調停を申し立てることで養育費を回収できた事例は多くあります。一人で抱え込まず、今日から動き始めましょう。

※本記事の情報は2026年時点のものです。制度・金額・支援内容は改定される場合があります。最新情報は各公的機関の公式サイトまたはお住まいの市区町村窓口でご確認ください。
※本記事は法律の一般的な解説を目的としたものであり、個別の法律相談の代替となるものではありません。具体的なご事情については弁護士または法テラスにご相談ください。

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参考・出典

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