「相手が認知してくれない」「認知させた方がいいのか、しない方がいいのか」——未婚で出産した方・妊娠中の方が、一度は考える問題です。
この記事では、認知のメリット・デメリット・認知しない方がいいケース・相手が拒否した場合の強制認知の手続きを整理します。個別のケースによって判断が変わる問題のため、最終的には弁護士や法テラスへの相談をおすすめしますが、「まず自分の状況を整理する」ための情報をお届けします。
認知とは何か:法律上の意味と効果

認知とは、結婚していない男女の間に生まれた子どもについて、父親が自分の子であると法律上認めることです。認知によって父子間に法的な親子関係が生まれます。
認知がないと法的な父子関係は存在しない
日本では、婚姻関係にない父子は、認知がなければ法律上の親子関係が成立しません。
婚姻中に生まれた子どもは「嫡出子(ちゃくしゅつし)」として自動的に夫の子と推定されますが、未婚の場合は「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」となり、父親が認知をしない限り法律上の父子関係は存在しません。認知がない状態では、戸籍の父欄も空欄になります。
参考:e-Gov法令検索|「民法」第779条
認知の主な効果
| 認知による効果 | 内容 |
|---|---|
| 養育費の請求権が生まれる | 認知後、父親に養育費の支払い義務が発生する |
| 相続権が生まれる | 認知された子は、父親の死亡時に相続権を持つ(嫡出子と同等) |
| 扶養義務が生まれる | 父親は子どもの扶養義務を負う |
| 国籍取得(外国人父親の場合) | 外国人の父親が認知することで、子どもが日本国籍を取得できるケースがある |
認知によって子どもに生まれる権利は大きく、特に将来の相続権は取り消せない重要な権利です。「今は必要ないかもしれないが将来子どもにとって有利になる可能性がある」という視点も持っておいてください。
認知しない方がいい場合とは?

「認知させた方がいい」という前提で考えられることが多いですが、状況によっては認知させない・あるいは急がない方が良いケースもあります。
DV・ストーカー被害がある場合は認知より安全確保が先
相手からDVやストーカー被害を受けている場合、認知の手続きを進める前に安全の確保を最優先にしてください。
認知の手続きは相手との接触を伴うことがあります。DVやストーカーがある場合は、住所非開示の措置を先に取った上で、弁護士を通じて手続きを進めることを強くおすすめします。自分で連絡を取ることで危険が生じる恐れがある場合は、法テラス(0570-078374)またはDV相談ナビ(#8008)に先に相談してください。
DVやストーカー被害がある場合は、認知手続きより先に安全を確保してください。住所は絶対に教えないでください。
相手の素行が悪く面会交流等でのトラブルが心配な場合
認知後に相手から面会交流を要求される可能性や、相手の行動が子どもに悪影響を与えると判断できる場合は、慎重な検討が必要です。
認知と面会交流はセットではありません。ただし、認知によって法的な父子関係が生まれるため、相手が面会交流を求めてくる可能性は高まります。面会交流自体は子どもの権利として保護されており、原則として拒否は認められません。「認知させた結果、相手との関係が続いてしまう」という側面は、判断の材料として持っておく必要があります。
個別のケースによって判断が大きく変わるため、認知を求めるかどうか迷っている場合は、弁護士に相談した上で決断することをおすすめします。
認知しない(させない)ことのリスク
認知をしない・させないという選択には、以下のリスクがあります。これも踏まえた上で判断してください。
| 認知なしのリスク | 内容 |
|---|---|
| 養育費を請求できない | 認知がないと法的な扶養義務が発生せず、養育費を法的に請求できない |
| 相続権が発生しない | 父親が死亡しても子どもは相続権を持てない |
| 将来の選択肢が狭まる | 将来子どもが認知を求めたいと思っても、父親が死亡していると手続きが困難になる |
「今の関係から逃げたいから認知させない」という判断の場合、子どもにとっての権利が失われることも同時に理解しておいてください。
認知させた方がいい場合とは?

安全面に問題がない場合は、一般的に認知させることがほぼすべての面で子どもにとって有利です。
養育費を受け取りたい場合は認知が前提
養育費を法的に請求するには、認知による法的な父子関係の成立が前提です。
認知がない状態では、相手が任意に支払ってくれる場合を除き、法的な養育費請求はできません。認知さえ成立すれば、養育費算定表をもとに適切な金額を請求でき、支払いがなければ強制執行(給与差し押さえ等)も可能になります。「養育費は要らない」という場合でも、将来の状況変化に備えて認知だけは取得しておくという選択肢もあります。

子どもの相続権・扶養を確保したい場合
父親に資産がある場合、認知によって子どもの相続権が生まれます。これは子どもにとって将来の大きな財産になりえます。
認知後に父親が死亡した場合、認知された子どもは嫡出子と同等の相続権を持ちます。「今は特に必要ない」と思っていても、父親が亡くなった後に「認知を受けていれば相続できた」という状況が生まれることがあります。
認知の手続き:任意認知と強制認知

認知には「父親が自ら届け出る任意認知」と「裁判所が強制する強制認知」の2種類があります。
任意認知:父親が市区町村に届け出る
父親が自分の意思で認知届を市区町村に提出することで認知が成立します。最も簡単な方法です。
認知届は父親の本籍地または所在地の市区町村役場に提出します。子どもが成人している場合はその子本人の承諾、子どもが胎児の場合は母親の承諾が必要です。父親が自ら届け出る場合、費用はかかりません。「相手が任意認知に応じてくれるか」が最初の確認事項です。
強制認知:相手が拒否した場合の手続き
父親が認知を拒否した場合、家庭裁判所への申立てにより強制的に認知を成立させる「強制認知」という手続きがあります。
| ステップ | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| ①認知調停の申立て | 相手の住所地を管轄する家庭裁判所に認知調停を申し立てる | 申立てから第1回期日まで1〜2か月 |
| ②調停での話し合い | 調停委員を通じて父親と話し合い、認知への合意を目指す | 調停期間:数か月〜半年程度 |
| ③調停不成立→認知訴訟 | 合意できない場合は認知の訴えを提起する | 裁判期間:数か月〜1年以上 |
| ④DNA鑑定 | 父子関係の証明のため、DNA鑑定が行われることが多い | 鑑定結果まで数週間 |
| ⑤認知確定 | 判決または和解で認知が確定し、戸籍に記載される | — |
強制認知は法テラスの援助を受けながら、弁護士と進めることをおすすめします。費用が心配な場合は、法テラスの審査を通じて弁護士費用の立替制度を利用できます。
参考:法テラス|サポートダイヤル
参考:裁判所|認知調停
DNA鑑定の費用と法テラスの活用
認知調停・裁判でDNA鑑定が行われる場合、費用は申立人(母親側)が一時的に負担することが多いです。
DNA鑑定費用は5〜15万円程度が目安です。費用の準備が難しい場合は、法テラスの「民事法律扶助制度(代理援助)」を利用することで、弁護士費用・鑑定費用の立替を受けられる場合があります。「費用がないから動けない」という状況でも、法テラスへの相談から始めることができます。
認知後の養育費請求の流れ

認知が成立した後、養育費の請求に進みます。認知と養育費は別の手続きのため、認知が成立しても自動的に養育費が決まるわけではありません。
認知後に養育費を請求する手順
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①直接交渉(任意の話し合い) | 相手に養育費の支払いを直接求める。合意できたら公正証書を作成する |
| ②養育費請求調停の申立て | 話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に養育費請求調停を申立てる |
| ③審判 | 調停不成立の場合、自動的に審判に移行し、裁判官が金額を決定する |
| ④強制執行 | 決定した養育費が払われない場合、相手の給与・財産を差し押さえる |
任意の合意ができた場合は、必ず「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成してください。これがないと、未払い時に差し押さえができません。

認知なしでも事実上の養育費を受け取っている場合
相手が任意で養育費を支払ってくれている場合でも、認知なしの状態では「支払い義務」が法的には存在しません。
任意払いは相手がいつ止めても法的に請求できない状態です。将来の安心のために、合意があるなら今のうちに認知と公正証書化を進めておくことをおすすめします。「今は払ってくれているから大丈夫」という状況が永続する保証はありません。
認知・養育費に関する相談先

認知・養育費の問題は一人で判断するには複雑な要素があります。以下の相談先を活用してください。
| 相談先 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 法テラス(0570-078374) | 弁護士費用の立替・無料法律相談の紹介 | 相談無料(収入要件あり) |
| 家庭裁判所の窓口 | 調停申立ての書式・手続きの案内 | 無料(申立て費用は別途) |
| 弁護士(私費) | 個別事情に応じた法的アドバイス・代理 | 相談30〜60分5,500円〜 |
| 市区町村のひとり親相談窓口 | 認知・養育費に詳しい弁護士との相談会を開催する自治体もある | 無料(自治体による) |
「どこに相談すればいいかわからない」という場合は、法テラス(0570-078374)に電話するだけで、状況に応じた相談先を案内してもらえます。
まとめ:認知の判断は「子どもの権利」を軸に・一人で判断しない
認知は子どもの養育費・相続権・扶養義務という重要な権利を発生させる手続きです。DVや危険な状況がある場合を除き、一般的には認知させることが子どもにとって有利です。
相手が拒否する場合は「強制認知」という手続きがあります。調停→裁判→DNA鑑定という流れで、費用面は法テラスの支援を受けながら進められます。認知後の養育費請求は別の手続きになりますが、認知が成立すれば法的な請求権が生まれます。
判断に迷う場合は、一人で決めないでください。まず法テラス(0570-078374)または市区町村のひとり親相談窓口に連絡することから始めてください。
※この情報は2026年8月現在のものです。本記事は法的アドバイスを行うものではありません。制度・法律の内容は改定される場合があります。個別の事情については弁護士・法テラス・各公的機関にご相談ください。
参考・出典
- e-Gov法令検索「民法」第779条 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
- 裁判所「認知調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_18/index.html
- 法テラス「サポートダイヤル」https://www.houterasu.or.jp/site/soudanmadoguchi-houseido/support-dial.html
- こども家庭庁「ひとり親家庭等関係」https://www.cfa.go.jp/policies/hitori-oya
